発注者のための開発会社との付き合い方

ウォーターフォールがダメ、アジャイルに変えた、
それでもうまくいかない——問題は手法ではなかった

株式会社STVテック │ 公開日:2026年5月 │ 対象:システム開発・AI導入を検討している発注担当者・経営層

ウォーターフォールは変化に対応できないと聞いて、アジャイルに変えた。スプリントを回し、こまめに確認しながら進めた。それでも完成したものは「思っていたものと違った」。

手法の問題だったのか、開発会社の問題だったのか——そう考えながら次のプロジェクトでは別の会社を選んだ。今度はAI駆動開発で効率化すると言われた。うなずいたものの、また同じ結末になった。

この繰り返しには、理由があります。問題は手法ではありません。手法がどう変わっても、解決されていない構造的な問題が、発注者と開発会社の間に存在しているのです。

結論:発注者が持つべき判断基準は「自分たちの課題が解決されるかどうか」の一点のみ。手法や技術は、その手段にすぎません。

📌 この記事でわかること

ウォーターフォール・アジャイル・AI駆動開発と手法を変えても失敗が繰り返される本当の理由、発注者が持つべきたったひとつの判断基準、そして「課題が解決されているか」を常に確認できる状態をどう作るかがわかります。

目次
1. 開発会社が使う言葉は、開発会社のための言葉

ウォーターフォール、アジャイル、AI駆動開発——これらは全て、開発会社が「どう作るか」を改善するために生み出したフレームワークです。発注者の「思っていたものと違う」を解決するために生まれたわけではありません。

開発会社が提案書や打ち合わせで使う言葉を並べてみると、ほぼ全てが開発会社側の言語です。

開発会社がよく使う言葉
  • ウォーターフォール/アジャイル
  • スプリント/イテレーション
  • AI駆動開発/RAG/LLM
  • 要件定義/ユーザーストーリー
  • CI/CD/クラウドネイティブ
  • 技術スタック/アーキテクチャ
発注者が本当に知りたいこと
  • あの課題、解決できますか?
  • 現場で使えるものになりますか?
  • いつ、どんな状態になりますか?
  • 何か問題が起きたらどうなりますか?
  • 追加費用は発生しますか?
  • 担当者が変わっても大丈夫ですか?

これらは全く別の言語です。開発会社は自分たちの言語で丁寧に説明しているつもりでも、発注者には届いていない。説明が詳しければ詳しいほど、発注者は置いていかれる感覚になります。

これは発注者の理解力の問題ではありません。そもそも伝えるべき言語が違うのです。

2. 手法は「進化」してきたが、発注者の問題は変わっていない
😓 繰り返されるパターン

「ウォーターフォールは変化に対応できない」と言われてアジャイルに変えた。「アジャイルは発注者がついていけない」と言われてAI駆動開発に変えた。手法が変わるたびに「今度こそ」と期待したが、「思っていたものと違う」という結末だけは変わらなかった。

手法の進化は、開発会社側の問題を解決してきた歴史です。ウォーターフォールの硬直性、アジャイルの属人性、それぞれの弱点を補う形で次の手法が生まれてきました。しかし、それらはあくまで「どう作るか」の改善であり、発注者が抱える「何が解決されるのか」という問いへの答えではありません。

だから手法が変わっても、発注者が直面する問題は変わらないのです。

数千万円かけて作ったのに、結局現場の人間は「Excelの方が早い」と言って古い運用に戻ってしまった
検収の直前になって「これは想定と全然違います」と言われ、修正に追加費用と3ヶ月の延長を請求された
途中から定例会議が進捗報告だけになり、「何のために作っているのか」を誰も確認しなくなった
機能追加のたびに「仕様変更」と言われ、気づいたら当初予算の2倍になっていた
⚠️ AI駆動開発についての注意

「AIを使えば何でも速く安くなる」は誤解です。課題が不明確なままAIを導入すると、単に「精度の低い、使い勝手の悪い機能」が高速で量産されるだけです。開発スピードが上がることは、同時に「ズレたまま進む速度」も上がることを意味します。

手法を変えても、「何のための開発か」が発注者と開発者の間で揃っていなければ、結果は変わらない。

3. 発注者の判断基準は「課題が解決されるかどうか」だけでいい

開発手法を理解する必要はありません。技術スタックを把握する必要もありません。発注者として持つべき判断基準はひとつです。

「自分たちの課題が、これによって解決されるか」——これだけが、発注者の判断基準です。

逆に言えば、この問いに答えてくれない開発会社、あるいはこの問いに答える前に技術の話を始める開発会社は、発注者の言語で話せていないということです。

「この機能はどう動きますか?」ではなく「この機能はどの課題を解決しますか?」。「スプリントは2週間です」ではなく「2週間後にどの課題がどの程度解決されていますか?」。発注者はこの問いを持ち続けるだけでいいのです。

💡 商談で使える問い

「この提案によって、私たちのどの課題がどう解決されますか?」——この一文を商談の場で聞いてみてください。明確に答えられる開発会社かどうかが、最初の見極めポイントになります。

4. 「課題と機能が紐づいている」状態を作る

発注者が常に「課題が解決されているか」を確認できるようにするには、課題と機能が常に紐づいて見える状態が必要です。

多くの開発現場では「機能一覧」が管理されています。しかしその機能が「何のためにあるか」が明示されていないと、発注者は機能の良し悪しを判断できません。技術的に正しく動いていても、課題が解決されているかどうかが見えないのです。

課題と機能が紐づくと、こういう構造になります。

課題A
属人化の解消
機能1(業務手順の自動化)、機能3(マニュアル生成)、機能7(担当者引き継ぎ支援)
課題B
対応品質のばらつき
機能2(回答テンプレート管理)、機能5(チェックリスト自動生成)
課題C
情報検索の非効率
機能4(社内文書検索)、機能6(FAQ自動更新)

この構造があると、発注者は常に「課題Aはどこまで解決されていますか?」という自分の言語で確認できます。機能の詳細を理解していなくても、判断できるのです。

また、優先順位の議論も変わります。「機能1と機能2、どちらを先に作りますか?」ではなく「課題Aと課題B、どちらを先に解決しますか?」という問いになる。これは発注者が答えられる問いです。

💡 ポイント

優先順位は「機能ベース」ではなく「課題ベース」で決める。機能の優先順位は、課題の優先順位が決まった結果として導かれるものです。

5. STVテックがやっていること

STVテックでは、開発に入る前に必ず「課題一覧」を発注者と一緒に作ります。課題一覧とは、「何が問題か」を発注者の言葉で書き出したものです。技術的な言語は使いません。

たとえば、こんな違いです。

❌ 開発会社が書く課題(技術言語)
  • 顧客管理の効率化
  • 情報共有基盤の整備
  • 業務プロセスの自動化
  • データ活用の推進
✅ 発注者の言葉で書いた課題
  • 外出中の営業から「前回の商談内容がわからない」と電話が来るのをゼロにしたい
  • 担当者が変わるたびに引き継ぎで1ヶ月かかっている
  • 月末の集計作業を毎回2日かけてやっているのをなくしたい
  • どの顧客がいつ離脱しそうか、事前に気づける状態にしたい

右側の言葉なら、誰が困っていて、何が解決されれば良いかが具体的にわかります。この粒度で課題を書き出すことが、「何のための開発か」を揃える出発点です。

01
課題一覧を先に作る

「誰が・どこで・何に困っているか」を発注者の言葉で書き出します。「AIで効率化したい」という言葉の裏にある本当の課題を、一緒に言語化するプロセスです。ここが曖昧なまま進めないことが、最初の約束です。

02
課題の優先順位を発注者と決める

課題が出揃ったら、どの課題を先に解決するかを発注者と決めます。この段階では機能の話はしません。「今の事業にとって最も痛い課題はどれか」という問いに、発注者が答えます。

03
すべての機能を課題に紐づける

要件定義の各項目が、どの課題を解決するために存在するかを明示します。「この機能はなぜあるのか」が常に追跡できる状態を作ります。課題に紐づかない機能は、原則として作りません。

04
進捗を「課題の解決度」で報告する

定例報告では「機能Aの実装が完了しました」ではなく「課題Aに対してここまで対応できました」という形で報告します。発注者が自分の言語で進捗を確認できる状態を維持します。

この進め方は、開発会社にとって楽ではありません。課題の言語化には時間がかかり、「作らない選択」を提案することもあります。しかし、現場で使われないシステムを作ることが最も非効率だと考えています。

6. まとめ

ウォーターフォール、アジャイル、AI駆動開発——手法を変えても「思っていたものと違う」が繰り返されるのは、手法の問題ではありません。「何のための開発か」が発注者と開発会社の間で揃っていないまま、開発だけが進んでいることが原因です。

開発会社の言語発注者の言語
ウォーターフォール/アジャイル あの課題、解決できますか?
機能一覧・技術スタック 何のための機能ですか?
機能の優先順位 どの課題を先に解決しますか?
機能Aの実装が完了しました 課題Aはどこまで解決されましたか?

発注者が理解すべきは手法や技術ではありません。「自分たちの課題が、これによって解決されるか」を常に確認できる状態になっているかどうか——これだけが、発注者として持つべき唯一の判断基準です。

その状態を作るために、課題一覧と要件定義を紐づけ、優先順位を課題ベースで決め、進捗を課題の解決度で報告する。開発会社に求めるべきはこの構造です。

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