要件定義

要件定義で失敗しないために
発注者がすべきこと

株式会社STVテック  │  公開日:2026年4月  │  対象:システム開発を発注する事業部門の担当者・マネジャー

「完成したけど、思っていたものと全然違う」「修正するたびに追加費用が発生する」──システム開発の失敗談として最も多いのが、要件定義のトラブルです。

複数の調査で「失敗の最大原因は要件定義の不備」という結果が出ています。しかし、要件定義は開発会社だけの問題ではありません。発注者側の関わり方が、成否を大きく左右します。

この記事でわかること

要件定義が失敗する典型的なパターンと、発注者として積極的に関与するための具体的な方法がわかります。

目次
1. 要件定義とは何か
よくある場面

「要求は伝えたつもりだった。でも完成したものを見たら、自分たちのイメージとは全然違っていた。」

要件定義とは「何を作るか」を具体化する作業です。しかしその前に、「要求」と「要件」の違いを理解しておく必要があります。この2つを混同したまま開発を進めることが、後半の認識ズレの根本原因になります。

「要求」とは、発注者が解決したいことや実現したいことです。「営業の日報入力を効率化したい」「在庫管理を効率化したい」——これらはすべて要求です。「要件」とは、その要求を実現するためにシステムが具体的に何をすべきかを定義したものです。開発チームが設計・実装できる粒度まで落とし込まれている必要があります。

「効率化したい」——その定義は発注者にしかわからない

「営業の日報入力を効率化したい」という要求を受けたとき、開発会社にとって「効率化」の意味はわかりません。それを定義できるのは、今その業務をしている発注者側の人間だけです。まず、今の業務の流れを把握することから始まります。

この人・データ・情報の流れを把握して初めて、「効率化」の定義が決まります。「入力時間を短くする」のか「入力場所を選ばなくする」のか「上長への報告を自動化する」のかによって、作るべきシステムはまったく変わります。

機能要件と非機能要件——両方を定義して初めて「使えるシステム」になる

業務の流れを把握した上で、要件は2種類に整理されます。「機能要件」はシステムが何をするかです。「非機能要件」はシステムがどうあるべきかです。確認する際は「速さ」「セキュリティ」「使える時間帯」といった現場の言葉に置き換えて開発会社と話し合うことが重要です。

① 性能・レスポンス

「画面の表示に何秒以内で応答すること」「同時に何人まで利用できること」。例:通常時3秒以内、同時接続1,000人を想定。

② セキュリティ

「誰がどの情報にアクセスできるか」「データはどのように暗号化されるか」。例:個人情報の暗号化保存、二要素認証の必須化。

③ 可用性・稼働時間

「システムがどの時間帯に使えることが必要か」。例:平日9〜18時は確実に稼働、障害発生時4時間以内に復旧。

④ 操作性・対応デバイス

「誰がどの端末で使うか」。例:スマートフォン・PC両対応、ITに不慣れなパート社員でも操作できること。

⑤ 拡張性・保守性

「将来的なユーザー数増加や機能追加への対応」。例:ユーザー数が10倍になっても対応できる設計であること。

⑥ データバックアップ・災害対策

「障害やデータ損失が発生した場合の対応」。例:データは毎日自動バックアップし30日分保持、直前の状態に復元できること。

機能だけ定義して非機能を曖昧にしたまま進むと、完成後に「重くて使えない」「スマホで使いにくい」「セキュリティ要件を満たしていない」という問題が発覚します。

2. 要件定義が失敗するパターン
陥りやすいパターン発生する結果
要求は伝えたが、業務の流れや背景を説明しなかった開発会社が「技術的に作れるもの」を作り、現場の業務と合わないシステムが完成する
現場で実際に使う人が要件定義に参加していない完成後に「使いにくい」「現場の業務フローと合っていない」が発覚する
合意した言葉の解像度が発注者と開発会社で違っていた同じ「効率化」「使いやすく」という言葉でも、頭の中のイメージが異なるまま開発が進み、完成間際に「そういう意味ではなかった」が発覚する
機能要件のみ確認し、非機能要件を曖昧にした完成後に「重くて使えない」「セキュリティ要件を満たしていない」が発覚する
要件定義を開発会社に丸投げする発注者の業務知識が反映されず、使われないシステムになる
3. 発注者が要件定義で果たすべき役割

要件定義は「開発会社が作るもの」ではなく、「発注者と開発会社が一緒に作るもの」です。しかし実際には「要件定義はお任せします」という発注者が多く、これが失敗の温床になっています。

なぜ発注者が関与しなければならないのか

開発会社は技術のプロですが、発注者の業務のプロではありません。以下の情報は、発注者にしか持ち込めません。

発注者が関与するための具体的なアクション

関与するといっても、技術的な判断は必要ありません。発注者がすべきことは3つです。

現場のユーザーを巻き込む:システムを実際に使う現場の担当者を要件定義の場に参加させます。システム部門と現場の認識がずれていることは珍しくありません。現場の声なしに要件を固めると、完成後に「入力の手順が業務フローと合わない」「承認ルートが実態と違う」という問題が発覚します。

「使えない」を言語化する:現場が今感じている不満・非効率・不安を言葉にして開発会社に伝えます。うまく説明できない場合でも、現場の業務を一緒に観察してもらう・業務フロー図を一緒に書くというアプローチが有効です。

成果物を必ず確認する:要件定義の成果物が出てきたら、発注者が内容を確認します。わからない部分は開発会社に説明を求め、自分の言葉で理解できるまで確認することが重要です。ここで曖昧にした内容が、後から認識のズレとして表れます。

💡 ポイント:発注者が業務知識を持ち込み、現場のユーザーを巻き込み、成果物を自分の言葉で確認する。この3つが揃ったとき、要件定義は初めて「使えるシステム」への設計図になります。

4. AI開発時代の要件定義で変わること

AI開発では実装速度が大幅に上がります。一見すると良いことに思えますが、要件定義の観点からは新たなリスクが生まれています。

方向がズレたまま速く進むリスク

AIを使った開発では、実装の速度が従来の2〜3倍になることがあります。しかしそれは「正しい方向に速く進める」ためのものです。要件定義が曖昧なまま開発をスタートすると、ズレた方向に大量のものが速く作られるリスクがあります。修正が必要になったとき、作られたものが多いほど手戻りコストは大きくなります。AI開発では要件定義の重要性はむしろ高まっています。

AIが要件定義を支援する時代

一方で、AI開発会社の中には要件定義フェーズでもAIを活用している会社があります。発注者としては「AIを使っているから速い」ではなく、以下を確認することが重要です。

💡 ポイント:AI開発会社を選ぶ際は、要件定義フェーズでどのようにAIを活用し、発注者と確認するかを具体的に説明できる会社を選びましょう。

5. 発注者として確認すべきこと
確認ポイントNG回答(要注意)OK回答(信頼できる)
要件定義の成果物は?「要件定義書を作成します」(何を決めて何を書くか説明できない)「作る機能・作らない機能・画面の構成・業務の流れを書面で確定し、発注者と合意します」
発注者の関与はどの程度?「適宜ご確認いただきます」(具体的なプロセスが見えない)「発注者と共同でレビューしながら作成します」
現場のユーザーはどう関与しますか?「必要に応じてヒアリングします」(主体が開発会社側)「実際に使う現場の方にもヒアリングさせてください」
非機能要件はいつ確認しますか?「適宜ご確認致します」(いつ確認するか不明)「要件定義フェーズで性能・セキュリティ・可用性も確認します」
AIの活用方法は?「AIで効率化しています」(何をどう使っているか説明できない)「AIが抜け漏れチェックを補助し、発注者と一緒に確認します」
6. まとめ

本記事では、要件定義が失敗するパターンと、発注者として果たすべき役割を解説しました。

発注者がすべきことなぜ重要か
業務フロー・例外処理・現場の声を開発会社に伝える発注者にしかわからない情報が設計の根拠になるため
現場のユーザーを要件定義に参加させるシステム部門と現場の認識のズレが、完成後の「使えない」につながるため
機能要件・非機能要件の両方を確認する機能が正しくても非機能を満たさなければ現場では使われないため
成果物を自分の言葉で理解できるまで確認する曖昧にした内容が後から認識のズレとして表れるため

要件定義の失敗は、開発会社だけの問題ではありません。発注者が業務知識を持ち寄り、現場のユーザーを巻き込み、機能・非機能の両面から積極的に関与することではじめて「使えるシステム」が生まれます。「任せる」ではなく「一緒に作る」——この姿勢が、失敗しない開発の出発点です。

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